(SS)魅惑のカステラ(後編1)

翌日の朝。
五月晴れの、とても良い空模様でした。

額にひんやりと気持ちの良い風を感じながら、一人の猫が、タイガーを走らせていました。
彼が走ると、道端から黄色い歓声とともに、たくさんの挨拶の声がかけられました。

彼は照れて苦笑いし、頭を掻きながら、一人ひとりに挨拶を返して進みました。

彼が颯爽と病院に乗りつけると、ファンの女の子のひとりが、プレゼントを抱えて待っていました。
こういうことは良くあることでしたが、今日の女の子は、なんだか妙にモジモジしています。
「すぐに開けて見てください」というので、プレゼントを受け取り、袋を開けてみると・・・。
中身は時期はずれの毛糸のマフラーと、申し訳なさそうに添えられたブランデー。

「あ、あ、秋から編み始めて、ようやく出来上がったのが・・・き、昨日なんです。」
「こ、今年の冬にっ、もももし良かったら・・・!」

緊張と恥ずかしさで一杯一杯なのが、傍目にも見て取れました。
こちらまで心臓の音が聞こえてきそうでした。

「根気ようがんばったんやなぁ。ありがとう。」

そう言うと黒崎は、もらったプレゼントを抱えて、にっこりと笑いました。
女の子はこの上もなく嬉しそうな顔。
そのまま「キャー」と走り去っていきました。

彼はなんとなく涼華を思い浮かべました。
涼ちゃんも、晋太郎さんの前ではこうなっとったなぁ・・・。
いやいや、そういう自分もなぁ・・・あー、ヤガミぃ・・・・(はぁと)

黒崎はため息を吐きながら院内に入っていきました。
およそこれが、彼の毎朝の出勤風景なのでした。

~~~~

ナースセンターで、黒崎は同僚の医師・るぅえんに呼び止められました。

「オハヨウゴザイマス、克哉嬢。昨日のカステラは美味しかったですか?」
「あーそれがなぁ。結局手はつけんと、こうして持ってきたんよ・・・って!なんで知っとるん?」

るぅえんが言うには、昨日非番だった彼が、涼華に教わりながら亀助と一緒に焼いたもの、とのことです。

「亀助嬢がですねぇ。『いますぐに持っていくにゃ!職場が駄目なら自宅に届けるにゃ!』と言って聞かなくて。」

亀助は嬉しそうにシンタロウに飛び乗って駆け出していったそうでした。
しかし、なんでも帰ってきたときには、シンタロウはひどくがっかりしていたそうですが。

「あー、零やろ。零は俺と一緒やったからなぁ。」
黒崎は苦笑いしました。
そして、どうやら危ないものではなかったことを知って、ほっとしました。

(・・・せやけど、あいつどうやってウチに入れたんや・・・;)

という、最大の疑問は解決しませんでしたが、そのことについてはあまり考えたくなかったと見え、黒崎は渋い顔をして朝の紅茶を飲み干しました。

~~~~

一方その頃、病院の中庭では、ツグとよしたまが日に当たりながらおしゃべりをしていました。

「よしたま先輩、絵、うまいんですねぇ。私、ため息つきながら見てましたよ。どうやったらあんなに(ペラペラ)」

マシンガンのようにポンポンと言葉が出てくるツグの話を、よしたまはニコニコして聞いていました。
後輩というのはこんなにも可愛いものかと、喜びをひしひしと感じているのでした。

すると。
そこに唐突に、一人の猫が現れました。
背後には不吉な暗い影を背負って、手には猛々しいカステラのようなものを持っていました。

「はぁ!はぁ!
 ちょうどいいところにいたぁ~。
 見てくださいよ、これ。この、カ・ス・テ・ラ、を!」

「え・・・? あ、波多江さんか!おはようございます!」
「どうしたんですかそんなに息切らして・・・わぁ、目の充血すごいですよ!」

「それよりもカステラだぁ~。この見事な カ・ス・テ・ラぁ!」

波多江は、どうだと言わんばかりにカステラのようなものを突き出しました。
あまりにも勢い強く突き出すので、よしたまは思わず体を反らし、手で払いのけようとしました。
カステラのツノ先が、その手にチッと触れました。

「痛ッ!」
「きゃっ!・・・あー!よしたま先輩!血が出てます!大変です!」

血を見たとたん、ツグは蒼ざめて、大慌てで院内に走っていきました。
「待っててくださいねー!すぐ包帯もって来ます!!」
と、院内から大きな叫び声が聞こえてきました。

あらら・・・と、よしたまは困った顔で笑いながら、波多江に向き直りました。

「どうだぁ~。よ~く見たかぁ・・・!? はぁ・・・はぁ・・・!」
「あの、波多江・・・さん?」

「このカステラの味はぁ・・・良かったろぅ?・・・・うふ、うふふふふ」

波多江の顔がみるみる引きつって、変化していきました。
背中にしょっていた黒い影が、負のオーラが、カステラのようなものを持った右手を中心に、全身を取り巻いていきました。
よしたまはもう笑顔ではいられませんでした。
急に恐ろしくなって、両手で顔を覆いました。

「なんだぁ!? 見てないのかぁ!!?
 だったらぁ・・・う、うううう、うがぁぁあ!」

「チカラヅクデモ!!ミセテヤル!!!」

きゃあああああ!
耳をつんざく悲鳴が、病院中に響き渡りました。

~~~~

悲鳴を聞きつけて、すべての医師たちはすばやく動き始めました。

黒崎「聞いたかっ?今の!」
るぅえん「ええ。確かに。あれは、よしたまさんですねえ。」

二人はバッと白衣を脱ぎ捨てて、飛び出しました。
中庭に出ると、なんとあろうことか波多江が、今にもよしたまを手にかけるところでした。
二人は事態の異常さを瞬時に把握しました。

黒崎「零!こっちや!」
るぅえん「来い、Kaiho!」

二人が呼ぶと、タイガーたちは一瞬にして駆けつけました。
零に飛び乗った黒崎は、波多江の眼前を掠めるように、疾風のように走り抜けました。
波多江は不意を突かれて仰け反り、その隙に、るぅえんがよしたまを抱えあげて、攫っていきました。

「波多江!どういうつもりやっ!」

「うううううがああ!
 ジャマ、スルノカァ!!」

波多江(というか波多江だったもの)は、もはや会話のできる状態では、ないようでした。
波多江だったものはカステラのようなものを握り締め、有無を言わさず、股から脳天まで斬り上げるような一撃を放ちました。
黒崎と零は、間一髪のところでその斬撃をかわしました。

「うわっ!あぶなっ!
 ・・・ん、とにかくわかった!取り押さえさせてもらうで!」

「カッカッカッカ!オモシロイ!オマエニモ、ミセテヤル!!!」

再び、波多江だったものが黒崎に襲い掛かりました。

最初の一撃で波多江の得物の威力を感じ取った黒崎は、(分が悪い)とはわかっていましたが、戦うことにしました。
ここで逃げたら、他のみんなや患者さんたちが危ないからです。
こっちは丸腰。もとより取り押さえられるとは思いません。

だけどみんなが逃げるまでは!せめて時間を稼がなくては!
二撃、三撃、波多江だったものの斬撃を鮮やかにかわし、避け。しかし逃げず。
黒崎は波多江の前に立ちふさがりました。

「零、頼む! お前の脚が頼りや!!」

黒崎&零と、波多江だったものの激闘が始まりました。

~~~~

ほどなくして、ツグとぷーとらが駆けつけました。

ツグ「えーん。包帯、絡みまくって網みたいになっちゃいましたぁ・・・」
ぷーとら「えっ?この事態みて包帯の心配っ!?」
ツグ「だってだってよしたまさんが出血ー。えーん。」
ぷーとら「じゃ、じゃあとりあえず君はよしたまさんの手当てを!僕は加勢する!」

ぷーとらは、侵入者撃退用の「さすまた」をとってきて、黒崎に加勢に行きました。
ツグはすでに網と化した包帯をもって、よしたまのところに向かいました。
よしたまは、まだるぅえんに抱きかかえられていました。

るぅえん「んー。これは使えそうですね。」

ジタバタするよしたまを放そうともせず、るぅえんは網包帯に関心を示しました。
「じゃ、これとよしたまさんを取替えっこで。」
とツグに謎の交渉を持ちかけ、快諾を得てまんまと面白アイテムを手に入れると、るぅえんは雄たけびをあげながら戦闘に飛び込んで行きました。

「お待たせシマシタ!お助けるぅえん、参上つかまつる!」
「うがぁあ!!」

スパァァン!スパァァン!

加勢、1.5秒で終了。
ぷーとらが突いた「さすまた」は8等分に切り分けられ、
るぅえんの投じた網は、バラバラに切り裂かれてガーゼのようになりました。
二人は顔を見合わせて、あたふたと逃げ戻りました。

波多江だったものは不気味な笑い声をあげました。

黒崎「(おーい;るぅえんにはKaihoがおるやろう;)」
波多江「カラカラカラカラ!我ハ、妖刀カスティーリョ!! 我ヲミヨ!!モットヨクミヨオオオ!!」

黒崎が逃げた二人に気を取られた一瞬。
波多江カスティーリョの切っ先が、黒崎の眼前に迫りました。

黒崎「(し、しまったッ!)」

黒崎、危うし。

(さらに後編2に続きます;)

(ナルシル)

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