(SS)【よけ藩国 お花見激闘編 前編】

「どうして、注意事項に『重火器類、及びその他危険物(特にガーター)は持ち込まないでください』って書いてあるんですか?」
「すぐに分かりますよ……」


――花見のチラシを手にしたツグと疲れた表情の波多江の会話――




春爛漫。

よけ国記念公園は満開の桜の木々でピンク一色に染上げられています。


当初の懸念と違い、参加者のわりにはまともに始まった花見大会でした。

それでも幾人かはチラシの注意事項に書かれた『重火器類、及びその他危険物(特にガーター)は持ち込まないでください』という一文を無視して、大量の危険物を会場に持ち込んでいます。

からす、ヘタレ、うにょなどは何を詰め込んだのか分からないほど、山のように膨れ上がったカバンを背負ってきました。

他に、名も亡き戦士、天志などわかばにして、運悪くイロモノ陣のなかに紛れ込んでしまった者たちは機関銃やらバズーカなど物騒なものを持ち込んでいます。

例えるならばこれは、虎の檻に飛び込むのに素手のままである者はいないということと一緒です。


●シート3番の場合

「こ、これは……」

額に脂汗を滲ませ引きつった笑みを浮かべる帽子猫は目の前には、

「どうぞ、食べてください……帽子猫さん?」
「そうそう、涼華さんの作ったお弁当は絶品なんですよ!」
「いえいえ、あおひとさんの作ったチーズフライもかなりいい味ですよ」

などと、言って帽子猫に手作り弁当とチーズフライをぐいぐいと突き出す涼華、あおひとの強力タッグがいました。

彼女らの生産した恐怖料理によって、被害を受けた人々は数知れません。

青にして紺碧、嘉納を筆頭とした避け国の男性陣は言うに及ばず、果ては遠くのるしにゃん国でまで彼女らの生み出した「でんせつのあんさつへいき」は使用されました。

「……大丈夫や。俺が今朝味見したやつよりはましや……ちょっ、マテ!?」

青い顔をして「避け美少年」を煽っていた黒崎は、目にも留まらぬ速さで料理を口に押し込まれました。

キュー。バタン。ブクブク。ピクピク。
(※活字にすると、とても残酷なので擬音のみでお送りします。)

「……く、黒崎さん?」

返事がありません。ただの気絶した黒崎のようです。

「サァ、ドウゾ帽子猫サン?」
「オイシイデスヨ?」

イノセントスマイルを浮かべた2人。殺傷能力高い最終兵器をグイグイ差し出します。
逃げることは出来そうにもありません。
何故なら、ピンク色オーラ全開のるぅえんが背後にピッタリとついているからです。

「……はぁはぁ、帽子猫さぁ~ん?」

まさに、前門の涼華、あおひと、後門のるぅえんです。絶体絶命です。
帽子猫は覚悟をきめました。

「……で、では、玉子焼きを頂きます……」

ギャァァァーーー。
一瞬、断末魔の叫びが花見会場中に響きましたが、誰も知らないふりを決め込んだのです……。

古人曰く、触らぬ神にたたりなし。


○シート4番の場合


ガツガツガツ。バクバクバク。ゴクゴクゴク。

「えっ……とぉ、波多江さん?」

ガツガツガツ。バクバクバク。ゴクゴクゴク。

「なんですか、名も亡き戦士さん?」

ガツガツガツ。バクバクバク。ゴクゴクゴク。

「これは一体……?」

ガツガツガツ。バクバクバク。ゴクゴクゴク。

「あー……例えて言うなら、飢えた肉食獣の早食い大会? ですね……」

結城洋一、森沢、青にして紺碧は凄まじい勢いで食べ物、飲み物をそれぞれの胃に収めるため、せわしなく手や口を動かします。

「・・・名も亡き戦士さん!」
「は、はい? 何でしょうか、紺碧さん?」
「「「お替り!」」」

異口同音に叫ぶ三人。
見れば、既に4番シートにあったはずの飲食物は全てきれいさっぱりなくなっています。

「・・・わ、分かりました」

がっくりとうな垂れながら、他のシートに向かう彼でした。

●5番シートの場合


天志はこのシートになったのは失敗だったなぁ・・・と、呟きました。
何故なら、天志以外に参加者は成年で、アルコールを浴びるほど飲み始めたからです。
特に嘉納は、他の参加者を無視する勢いでビールやら、日本酒やら片っ端から飲み干します。

「おーい、天志―!」
「は、はい何でしょうか?」
「酒を飲め!」
と、言って赤い顔で嘉納は天志のコップに酒を注ごうとします。

「あ、あの僕……未成年なんですけど?」
「うるさい! 俺の酒が飲めないというのか! 摂政命令だ! 飲め!」

※未成年の飲酒は、法律で禁じられています。(よけ藩国:政庁よりのお知らせ)

これが俗に言う絡み酒というやつです。見かねたぷーとらが止めに入りますが手が付けられません。

「か、嘉納さん、絡むのは……ぐへっ!?」
「うるさい!」

本来なら、避けられるはずの一撃でしたが、ぷーとらもそこそこ酔っていたので回避が間に合いませんでした。
顔面に拳を受け、ぷーとらは面白いように吹っ飛びました。2、3回ほど大きくバウンドして、桜の木に激突して止まりました。

周囲が唖然とする中、ナルシルとからすが素早く動きました。

「からすさん、殿下を抑えてください」
「了解!」
「なっ…何をする離せ!」

ジタバタと暴れる嘉納ですが、からすの背後からホールドは解けそうにもありません。

「では、失礼します!」

プスッ。
ナルシルの構える極太の注射針が嘉納の首筋に刺さりました。

「……」

バタン。

「だ、大丈夫なんですか…その中身は?」
「ダイジョウブデス。ハハハ、ボクハイシャデスカラネ!」

鎮静剤や睡眠薬などはひとによって量が違うのですが、ナルシルは調整した様子もありません。
結局、酔ってなさそうに見えた彼も酔っていたのです。

「なんで、片言なんですか……」

からすはピクリとも動かなくなった嘉納の脈を計ろうとします……

「……」
「……」
「……」

しばらく、なんとも言えない沈黙が続きました。



○6番シートの場合



天志とはまったく逆の理由で、安東は後悔しています。
何せ、まわりが全員未成年ですから、酒が飲みにくい雰囲気なのです。仕方なく、だまってコップに注いだサイダーをちびちび舐めています。
たまに、ちらりとほかの参加者の様子を伺ってみます。
「うー、ガミッチ様がいないお花見なんてつまんない!」
と、ガミッチ様目当てで参加していた泣きながらちはがやけ食い、やけ飲みにはしっていました。
「わぁーーん」
彼女が自ら持ってきた古酒に手をつけようとしたので、安東は慌てて奪いました。
「君はまだ未成年だろうが!」
「……酒でも飲まないとこの気持ちは晴れません!」
「そ、そうか……」
ちはに凄まれて、二の句が告げない安東でした。

「おー、それ凄そうですね?」
「えぇ、これはかの名匠――の作った竹箒型レーザーなんです! 16連射出来るんですよ! ヘタレさんのハリセンも凄そうですね?」
「はい、そうなんですよ……タングステン製で作ってあって、20ミリクラスまでの弾丸なら弾けるんですよ!」
「へぇー、それはすごいですね!」

ヘタレ、うにょはお互いに持ってきた秘蔵のハリセン、竹箒を見せ合っています。



――などと、花見とは相当無縁な光景がひろがるなか、
黙って一人咲き誇る桜を見ていた、波多江は寂しくカステラを齧ります。

「……誰も、花見してないんですね」



後編に続く)

(波多江)

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