(SS)魅惑のカステラ

春が過ぎ、そろそろ初夏の日差しがまぶしい今日この頃。
相も変わらず海法よけ藩国では、騒々しくも平和な日々が送られていました。

今から語られるのは、そんな日々のほんの1ページの出来事です。
いつものようにささやかで、不思議で、どこかぶっとんだ騒動が、この日も藩国に巻き起こりました。

さて、みなさん。その前に。
覚えていらっしゃいますでしょうか。
あの日のことを。
波多江さんがカステラを描いたあの日のことを。

これから語られるお話は、あの日の続きの出来事。
お話は、終わってはいなかったのです。

~~~~

そろそろカステラの衝撃が風化して忘れられようとする頃、その事件は起こりました。
事件の発端は、ある日の、静かな夜のこと。

医師であり絵師でもある黒崎克哉が、一日の勤めを終えて、夜もだいぶ遅くなって帰宅しました。
頭はクラクラするし、手はまるで棒のよう。
そして大層ぐったりとした表情でした。
ただ、気分だけは妙にハイテンションでした。

それと大体同じ頃に、波多江もまた、クタクタになりながら帰宅しました。
目はグルグルするし、指先はまるで棒のよう。
そして大層げっそりとした表情でした。
ただ、気分だけは絶妙にテンションマックスでした。

二人とも多忙な毎日を送っていました。
黒崎は絵師として獅子奮迅の働きぶりを続け、波多江もまた文族として誰にも負けない頑張りを見せ、楽しいイラストやストーリーを書きまくっていました。

そんな二人が、ささやかな憩いと睡眠を得るために、帰宅してきた我が家。
つくろぎと安らぎの場所。
しかし二人は、それぞれ家に帰って仰天しました。

「・・・なんやねんコレ!?」

「な、なんだよコレ!!」

そこには何となく見覚えのあるものがありました。
でも、それがなぜここにあるのか、心当たりは全くありませんでした。
なぜだか全く解りませんが、あの日二人が描いた絵にそっくりのカステラが、テーブルの上に置いてあったのです。

誰がどうしてカステラなんか・・・。
黒崎は呆っ気にとられました。

波多江は嫌なことを思い出して腹を立てつつも、眼前にいきり立つカステラの勇姿に、思わず唾を飲みました。

二人はとても不思議に、そしてとても気味悪く思いました。
どちらも、家の鍵はちゃんとかけてありました。
中には誰にも入れないはずです。
それなのに一体何故・・・?


~~~~


(画:黒崎克哉)

黒崎のカステラはふんわり美味しそう。
そしていい匂いがしました。

誰かの手作りでしょうか?
そのカステラはお皿に乗せられて、無造作にラップがかけられていました。
が、周りには置き手紙ひとつ見当たらず、誰か持って来たのかさっぱり解りません。
申し訳ないけど怪しさ十分です。

「うまそうやけど・・・食う気にゃならんなあ・・・。」

とは言いつつも、まあカステラですし、悪意があって置いていったとは思えません。
無闇に怪しんで捨ててしまうのは、勿体ないと思いました。

黒崎はとりあえず、明日、病院に持って行くことにしました。
誰の仕業にしろ、たとえ好意のプレゼントであったにしろ、甘いものはあまり得意ではありませんでしたから。
そうだ、同僚の森沢なら喜んで食べそうです。

~~~~

波多江のカステラは、なんというかすごい迫力でした。
絵に描いても飛び出して来そうな躍動感だったのに、今やそれが立体で、目の前にあるのです。


(画:波多江)

誰かの手作り・・・なのでしょうか?

峻厳に切り立ったツノ部分は今にも目に突き刺さりそうでした。
見たところ丁寧に包まれていたらしいラップは、ツノによって無惨にも突き破られ・・・、というよりもむしろ鋭利な刃物で切り裂かれたようになっていました。
波多江は、これほど勇ましいカステラに出会うのは初めてでした。

・・・見れば見るほど、恐ろしいものでした。
それでいて、なかなかどうして、目が離せない魅力がありました。

波多江はもう目を逸らしたいと願いながらも、なおも見とれ続けました。
しまいにはとうとう、これがとても美しい物のようにさえ、思えてきました。
これを誰が持ってきたかなんて、もうどうでもいいように思いました。

ぞくりと身震いがしました。
・・・危ない。これは危ない。
実に30分以上も見とれたあげく、ふと我に返ると、波多江はカステラを紙袋にしまい込みました。
本当にもうこれ以上は見ていられないと思いました。

波多江は、明日これを病院に持って行くことに決めました。
今はもう転職していて医師ではないのですが、このカステラだけは病院に持って行くべきだと思ったのです。
というのも、この見事なカステラをみんなに見せれば、あの日の雪辱になるかも知れないからでした。

「はぁ、はぁ・・・!
 復習するのはみんなの方だ!
 世の中にはこういうカステラもあるんだってことを教えてやる!!」

鼻息も荒く、目を爛々と輝かせて、波多江は意気込みました。
しかしその目は、ほんのりと妖気を帯びているようでした。

・・・まるで妖刀に魅せられてしまった人のように。


不気味で静かな夜が過ぎていきました。

黒崎はぐっすりと寝息を立て、
波多江は、目を見開いて眠れぬ夜を過ごしました。


さて、お話は後編に続きます。
事件の展開と、全ての謎は、後編のお楽しみ。

(ナルシル)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

波多江
2007年05月08日 20:54
な、ナルシルさぁーん(;つД`)
ナルシル
2007年05月08日 23:29
いやん、まだ序の口ですのよ。ほんの"さわり"ですのよ。
でも、このまま後編書いたら波多江さんは伝説の仲間入りです!
亀助
2007年05月08日 23:33
ここで後編へ続くですか!うわぁ~気になる~!!カステラ最強!!
るぅえん
2007年05月08日 23:34
う~む、絶妙ですなw
やはり波多江さんのカステラ画は迫力ありますね。
この見上げ視点がなんともw
くりぬいて住めるんじゃなかろうか。
黒崎克哉
2007年05月09日 01:43
波多江さんがどんな伝説になるか楽しみー(≧∀≦)
ついでに「克哉」の字が「克也」になってますがなー(´Д`;)
ナルシル@携帯
2007年05月09日 07:40
し、しまったぁー!!>克哉
青にして紺碧
2007年05月09日 10:56
し、しまったぁー!!>克哉

ということで修正しましたorz