マグロ戦線異状なし(後編)

「全然釣れないなぁ……」

漁を始めて数時間、まったく釣れる気配はなかった。

「あーもういやになるなぁ」

そう呟いた時だった。

「おっ!?」

鋼鉄製ワイヤーの釣り糸が凄まじい勢いで引っ張られていく。この引きはコスモマグーローに違いないだろう。

「よし、さっさとマグロ釣ってガミッチ様に献上しよう!」

波多江は後に、コスモマグーローを軽く見ていたことを激しく後悔することになるのだった……。


「――ちはさん、波多江さんを見かけませんでしたか?」

のうきん……もとい吏族紺碧は雑談室に足を運んでいた。紺碧の問いに、ちはは首をよこに振って答えた。

「ごめんなさい、見かけてません」
「そうですか……あれー? ここでもないなら、一体何処にいるんだろ……失礼しました」

ガチャン。
紺碧は雑談室をでて、再び波多江を探しに戻った。

「――涼華さん」

紺碧の足音が完全に聞こえなくなってから、ちはは近くに座っていた涼華に声をかけた。

「どうやら……波多江さんはちゃんと手紙を読んでくれたようね」
「ええ、そうみたいで。政庁を朝早く出て行くのをよっきーさんが見たそうです」

2人とも優雅に紅茶を飲み、微笑を浮かべてこそはいるが、決して目は笑っていない。

「ところで、本当にコスモマグーローなんてうちの国の近くで釣れるの?」
「嘉納さんが適当に言ってた出まかせですよ。こんなのがうちの国で釣れるといいなぁ、って」

あおひとが苦笑交じりにちはの疑問に答えた。

「ってことは、波多江さんは釣れもしない魚のために海に……」
「けど、当然かも……わたしたち『ガミッチ様を愛でる会』のメンバーをさしおいて、ガミッチ様の柔らかな毛並みを堪能したんだから」
「そうですよね、ちは会長」
「――私たちはガミッチ様とただ触れ合いたいだけ。だけど、障害になるものは」

フフフと、ちははひざにのせたガミッチ様……ではなく、ぬいぐるみをなでながら不気味に笑う。
やがてその笑いはあおひと、涼華にも伝わり、しばらく雑談室は背筋が凍るような笑い声で満たされたのだった……。



その頃、海上もとい空中。
波多江は呆然としていた。

「まさか、コスモマグーローが空を飛べるなんて……これじゃ、魚じゃないだろ!?」

銛を打ち込むまではよかった。
しかしコスモマグーローは海中から急浮上をするとあっと言う間に「人生トリプルプレー号」ごと空中に浮かび上がったのだった。

「波多江君、困っているようだね?」
「そ、その声は森沢さん!?」

突然鳴り出した備え付けの無線機。聞こえてきたのは、森沢の声だった。


「コスモマグーローに困っているなら、この無線機の横に置いてある物を使うといいよ」
「な……なんですかこれ?」

波多江が手に取ったのは懐中電灯のような形をしたものだった。
ためしにスイッチらしきものを押してみるが、何も起きない。

「それね、<フードセイバー>っていう……まぁ一応ライ○セイバーみたいな剣なんだ」
「けど、これつきませんよ?」
「あーえっと……それ<食い意地>で発動するから」
「はぁい!?」
「だから、<食い意地>で発動するの」
「……」

そんなもんでどうやって発動させるんじゃい、と呆れ果てる波多江。

「仕方ないなぁ……波多江君、目を閉じて想像(イマジン)してみよう」

黙って森沢の言葉に従って目を閉じる。

「君が獲ってくるべきコスモマグーローはガミッチ様だけでは、到底食べきれない。だから、わたしたちにも振舞われる。これは分かるよね?」
「はい」
「それで、並べられる数々のマグロ料理」
「……」
「脂の乗った中トロや大トロの寿司や刺身、ご飯と一緒にかきこむ鉄火丼、ねぎとろ丼……」

実にうまく料理のいい点を並べてた立てて食欲を掻き立てる森沢の喋り。
森沢の手によれば例え悪名高い「でんせつのあんさつへいき」でも美味しくいただけるに違いない。
もっとも、その後の生死は分からないが……

「他にも鉄火巻き、カブト煮、カルパッチョ、ツナサンド、カマ焼き――」
「(ゴクリ)……」
「食べたいよね? 食べるよね?」
「……はい」
「ならば、だ! 波多江君、目の前のコスモマグーローを獲ってくるのだ!」
「はい、分かりました! 森沢さん……いえ、森沢師匠と呼ばせてください!」

波多江はフードセイバーを握り締めると、力の限り叫ぶと

「フードセイバー発動! 覚悟しろよ、コスモマグーローめ!」

上空のコスモマグーロー目掛けて跳躍した……。



「やったぞ……!」

激闘の末になんとかコスモマグーローを倒した波多江だったが、1つ重要なことを忘れていた。
コスモマグーローにぶら下がる形で「人生トリプルプレー号」と波多江は空中に浮いているのだ。
そこでコスモマグーローを倒したら……?

「お、落ちるー!?」

自由落下によるマイナスGを味わいながら波多江は決意した。

「なんとか、コスモマグーローはガミッチ様に届けないと……」

いくつかの力学やら運動やらの法則を無視して、波多江は渾身の力でコスモマグーローを王城の方向に投擲した。

「よし、多分これで……」

海面まであとわずか、よけ藩国に入国してからの出来事が走馬灯のようによみがえる――

「俺死ぬのか!? って、ぐはっ!」

バッシャーン。
盛大な水しぶきが二つ上がったのだった……。

「まさか、本当にいるとは……コスモマグーロー」
「大きすぎ……」

波多江が投擲したコスモマグーローは狙い通りに王城にしっかりと到達し、ガミッチ様が一通り頂いた後、森沢の狙い通りに国民たちに振舞われた。

「あー、おいしいなぁ……波多江君もくればいいのになぁ」

たたきを頬張りながら、残念そうな表情の森沢。

「そういや、波多江さん一体どこにいるんだろう……?」

同じく、ねぎとろ丼を一生懸命にかきこみながらくびをかしげる青にして紺碧だった。

――その日、ぷかぷかと海に浮かぶ波多江が無事に発見されたそうである。

「結局、紐なしバンジーやったじゃないか……」

さらに後日。
政庁から送られてきた「人生トリプルプレー号」の修理費の請求書を見て波多江が青くなるのはまた別の話であった――

(波多江)

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この記事へのコメント

青にして紺碧
2007年03月16日 00:46
コスモマグーロー、大変おいしゅうございました(-人-)合掌。
波多江
2007年03月16日 00:55
……ガミッチ様を愛でる会の方々。本当に申し訳ございませんでした(汗
森沢
2007年03月16日 06:59
「波多江さん、どうしたんだろうねー?」
「ねー」
「このテールのステーキ避けきのこソースあえや、新鮮な避け鳥卵と避け牛バターの香りがたまらないカマの身ほぐしオムレツや、木苺を入れたさっぱり味の大トロカルパッチョとかものすごーく美味しいのにねー」
「ねー」
「そうだ、残ったマグーローの目玉(半径1m)をメインにみんなであれを作って戻ってくる波多江さんを迎えてあげよう!」
「あれって?」
「やみな(ry」
りゅうへんげ@わかば
2007年03月16日 08:36
波多江さんありがとう!
脳天の鉄火巻き、美味しくいただきました☆
/あれ?波多江さん?波多江さんは何処に…?
ナルシル@携帯
2007年03月16日 12:13
産地直送・鮮度抜群! 波多江さんご馳走! 目玉残っててヨカッタネ(笑)
ヘタレ@わかば
2007年03月16日 13:15
波多江さんご馳走様でした!
・・・そして合掌