今日の涼華センセ070119【真実の独白】

『億に一つの可能性で晋兄に会えたとして。初対面の人から愛称で呼ばれるのは、
いくら晋兄でも嫌じゃないかな?誠意な気持ちを伝えるためにも、
相手の目を見て「晋太郎さん」と言えるようにならなきゃ。さぁ、レッツトライだ!』

と舞台裏の相方・亀助から言われたのは、軍医として出撃する前日だった。
晋兄の事になると、すぐ目がぐるぐるになる。耳も尻尾もタレーンショボーン。
何度も声に出して呼ぼうとして「し、し…しん…」と吃って終わる。そして凹む。

結局、顔を赤くしてあわあわしている内に朝になり、出撃することとなった。



そう。あの日。
涼華は目がぐるぐるな上に、徹夜だった。

あの時、医療テントに運ばれてきた兵士の腕にめり込んだ弾を取ろうとして、
寝落ちしかけて、危うく殺人を犯すとこだったのだ。



その時、一人心に決めたことがあった。

『会いたい人がいるのに、こんなとこで人を殺そうとするにゃんて、ダメなのにゃ!
救うべき人が目の前にいる時は、晋兄のことを見ないようにするにゃ!』


この猫物、猫のくせに生真面目だった。
そしてやっぱり、まだ『晋太郎さん』と呼べないでいた。


 /※/


本日は午後診療なし。
会議はあったが、結局話し合ったのは5分だけ。
所詮、猫の集まりである。
しかも解ったことは、王猫ガミッチ様まで健康診断を避けていた、と言うことだけだった。
と言うか、どれだけ探しても診断受けたらしき形跡がなかった…。
そう、議題は”政庁内の健康診断について”だった。
何せ敵(笑)は最強揃い。院長など、すでに諦めぎみだった。

まあ、その話は別の機会として。


急患無し。手術予定も緊急手術も無し。まったりした午後を院内で過ごし、
涼華は定時より少し早く帰宅した。

帰ってくると、白衣を脱ぎ捨て、黒のガーターストッキングも脱ぎ捨て、
部屋に転がっていた、でっかいテディベアを抱きしめた。ついでに長い尻尾でクルンと巻いた。
このクマさん。どんだけデカいかと言うと、全長80cmある。幼児なみ。名前は『シンタロー』だ
(実話)。


折しも、同時刻。
政庁内ではわんわん帝国の不審な動きに、藩王には秘密で、会議が行われていた。
こたつ円卓にみんな丸まって。


一方、涼華も自室のこたつにシンタローを引っ張り込み、名前を呼ぶ練習をしていた。

あまりに心も目もぐるぐるで、名前をきちんと呼ぶことが出来ないと、
晋兄に会えないんじゃないか、という恐怖観念すら起きはじめていた。

ふにゃ。ふにゃ。
シンタローを真っ直ぐ見つめ、『晋太郎さん』と言う。ただそれだけができない。
口をパクパクし、なーなー鳴くだけ。
すでに、一週間このネタで亀助にからかわれていた。
しかし、言えない。


あの、あの綺麗な顔がちらついただけで泣きそうになる。
あの声で名前呼ばれたら倒れるんじゃないだろうか、自分は。
そう妄想するだけで逃げ出したくなった。



別に、「好きです」とか告白したいわけじゃない。
晋太郎の幸せが涼華の幸せだから、晋太郎が幸せなのを見ることができれば、
それでいい。
なぜ、それが名前を呼ぶところから始まるのかは解らないが、
すでに涼華は思い込んでしまっているのだから、放っておこう。



こたつに丸まり、ふにゃふにゃ鳴く。
シンタローを抱きしめ、さらに尻尾でクルン。離さない。

(心の中ではいくらでも「晋太郎さん」って言えるにょに…)


鳴く。口をパクパクし、吃る。凹む。
それをまた少しだけ繰り返したあと、いきなりこたつから出てきた。

好きな人の名前を呼ぶだけじゃないか!なぜ呼ぶくらいできない!
でもそれが乙女(?)心なのだ。
しかし、それでは先に進めない、と意を決する。

シンタローを真っ直ぐ見つめる。その先にはあの綺麗な顔。
ぶっ倒れそうな意識を、どうにか保ちつつ、深呼吸を一つ。


「晋太郎さん」


ばぁん!
名前を呼んだ瞬間。恥ずかしさのあまり、シンタローを壁へ投げた。

あと、もう少しだけ時間が必要そうだ。
でも、携帯の待受はあの好きな晋太郎さんにしようかな、と思うようになった。


 /※/


おまけ.1

翌日、政庁にて。
「紺碧様ぁ~」
間延びした声で青にして紺碧を呼び止める小柄なメイドがいた。
メイド服の長いスカートの裾を踏んではこけそうになりながら、
紺碧の元へと何やら持って、駆け寄ってきた。
「涼華先生から差し入れ届きましたぁ~」
メイドの手には、あのひ○ぴたの箱。メモが貼り付けてある。

”紺碧様。
ひえぴ○を一箱、お届けするにゃ。また脳筋が筋肉痛ににゃったら使ってにゃ。
嘉納様が、頭から湯気出した時も使えると思うにょで、
新品一箱12枚入りを差し入れるにゃ。
涼華”

しかし「はい」と渡されたその箱は、開けた形跡があり、どう見ても新品ではないような。
あとで判ったが、一枚だけ使用した後のものだったらしい。

「ありがとう」
そう優しく言って箱を受け取った紺碧は、その○えぴたの箱を自分の執務机に置き、
仕事に戻った。


 /※/


おまけ.2

今日の避け藩国国立病院は、朝から患者が多かった。
そのお陰で、どこの科も午前の診療が昼休憩を大幅に割くこととなった。

ふと、看護婦が口を開く。
「今日はやけに『ナニワ人エキゾチック変身セット』で変身してる患者さん、多かったですね~」
「今、流行ってるからにゃ~でも…」
「でも?」
涼華は難しい顔をして言った。
「どうらんつけて診察に来るにょはやめてほしいにゃあ…顔色が解らないにゃ…」
「あ、ああ…そうですね」
妙な納得をしてしまう看護婦。そして、涼華の頭にひっつけてある『それ』を指した。
「涼華先生の頭のひえ○た。どうされたんですか?風邪です?」
「違うにゃ…ただの知恵熱にゃ…」


「晋太郎さん」と呼べる日は、遠くはないけど、近くもなさそうです。

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