彼の者の名はメビウス

 登庁前。誰も居ない事務室から、キーボードを叩く音が響く。

 未だにキーボードなのかなどといってはいけない。
ただのキーボードではない、よけ整備士の手作り木製キーボードであり、
木の暖かみが仕事中に疲れを癒すと評判なのだ。

 音源となっているのは、整備士の制服を着た、中々に渋い顔をした男である。
目で全く別の書類を見ながら黙々とキーボードを叩いて何かを処理しているようだ。

 しばらくすると、登庁を告げる鐘が鳴り出した、
男は静かに立ち上がると事務室の電気を消して、去っていった。
途中二人の官吏とすれ違ったが、軽く首を下げて挨拶するにとどめる。

「あれ、誰だ?」

 すれ違った二人の片方がもう片方に尋ねた。

「ああ、知らないの? アレが、ウワサの万能文士こと、メビウスさん」
「いや、知らない、俺先月まで塔に配属されてたから下界のことには疎くて」
「下界って、君は仙人か! てか、よく塔に配属されて戻ってこれたなあー」
「いやー、運がよかったとしか」

 二人の話題はそのまま塔の話題にシフトしていった。

 メビウスは、よけ国でも随一の官吏であり、ぜのすけの整備にもかかわる
超一級の整備士でもあるが、実は所属は文族にして、星見司である。

 元々文族として登壇したのだが、初期のよけ藩国でのアースクラッシュの際に
国民避難でその才能を発揮、ほぼ完璧な事務処理で脱落者や行方不明者を最小限に
抑えたことが評価されて、そのまま官庁に引き抜かれたが、本人の強い希望で、
いまだ籍だけは残留している。

 メビウスが塔の最上部にあがると、数人の星見司達が集まって、何やら議論を行っていた。

『ここしばらく大きな変化はなかったはずなのに……』

という声が聞こえる。
 メビウスは、書類を机の上に置くと、近くにいた若手に尋ねた。

「何か急な動きが?」
「はあ、実は昨日流れた流星について意見が分かれてまして」

 顔を引き締める。流星は大きな変化の予兆でもある。重大事かもしれない。

「それで?」
「あ、はい、班長達は流星の通った位置から、アレはツンデレが衰退し、
三種の神器が復興される予兆だと言っています。
でも自分たちはツインテールの復興だと思うのですが」

 『三種の神器』のあたりで、メビウスは単語を調べるために書庫に向かった。
 どんな些細な論議にも全力を尽くす。それが男メビウスの生き様である。


【男・メビウスの肖像画。美少女と呼ばれて渋い顔をしている】

(作:嘉納/構成と校正:青にして紺碧)

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