結婚するって本当ですか

 何事か思い詰めたような表情でしばらく藩王の執務室の前を行きつ戻りつしていた
青にして紺碧は、やおら顔を上げると力強くインターフォンを押し、
そして部屋の中へと消えた。

 扉が閉まるやいなや、さりげなく廊下をうろついていたメイド達が一斉に駆け寄り、
扉に耳を当てる。
 いつもはこのような行儀の悪いことはしない彼(彼女)らだったが、初の大勝利に
わき上がる周囲とは裏腹に、ただ一人苦悩の表情を浮かべていた彼のことが
気になっていたのである。

「ね、ねえ聞こえる?」
「しっ、静かに…」

 彼女らの感覚を強化された猫耳にかすかに聞こえてくるのは、だがしかし藩王への
叙勲に対する祝辞や、紺碧を初めとする吏族に対する王のねぎらいの言葉などである。

「勝ったとはいえ、沢山ご飯を使ったから…食糧増産申請かしら?」
「だったら、いつものようによきにはからえ、で避けちゃっておわりじゃないの?」
「そうよね」

 主君に対してなにげにひどい批評をしているメイド達である。
彼女らは、先日、藩王と摂政により被った損害(イベント09 物語で見る各国の
戦争準備状況(嘉納編)参照)の後始末を徹夜で行ったのを未だに根に持っていた。

「あら、何も聞こえなくなったわ」
「え? ほんとだ…何か内緒話でもしてるのかしら」

 いよいよ扉に体を摺り寄せ、懸命に聞き耳を立てる彼女ら。
 次の瞬間、

『………、陛下! 近衛さんを私に下さい!』

 数部屋先まで響き渡ったであろう紺碧の叫びに、メイド達は全身の毛を逆立て
1mほど垂直に飛び上がった。

「ん? いいよぉ~」
「はっ!有難き幸せ! では」

 続く言葉を耳にして、うろたえながらも彼女たちは咄嗟に足下の箒を手に取る。
 扉が開き、うってかわって晴れやかな表情で去ってゆく紺碧の後ろ姿が消えた数分後、
ようよう彼女たちは掃除している振りをしていた手を止め、顔を見合わせた。

「き、聞いた?」
「う、うん。確かに聞いた、というか、あれは聞き逃しがないわよ」
「あれって、あれって…」

 一人ががぷるぷる肩を震わせる。

「あれって、紺碧様が近衛様をお嫁に下さいってことだよね!?」

 全員いきなり大興奮、耳としっぽをぴん!と立てる。

「きゃー、うそー、いやぁー」
「あたしたち、けってーてきな瞬間きいちゃったのもしかしてぇ!?」

 既にそこが藩王の執務室の前だということも忘れ、きゃーきゃー、と盛り上がる。

「え、でもさぁ」

 一人がふと、首を傾げる。

「紺碧様って…男性だよね?」
「…う、うん」
「でさ、近衛様も確か…」

 夢から覚めたような面持ちで、おそるおそる、顔を見合わせる一同。

「じゃ、じゃあ、お二人の関係って、どこぞの國で流行の…B」
「言っちゃだめ! その単語を口にしてはいけないわ!」

 一瞬にして、脳筋よりも重い沈黙がその場を支配した。
 だが、しばらくするともう一人がためらいがちに、口を開く。

「あの、もしかして、さ。紺碧様って、実は女の子?」
「ええーっ!」
「考えてみれば、並の女の子より可愛い顔をしてらっしゃるし」
「だって、公式国民リストには、(脳筋)男、って記載があるわよ?」
「いやほら、確かに胸全然ないから今まで疑いもしなかったけど、
一緒にお風呂入って確かめたわけでもなし、そんなのわかんないわよ」
「たとえばさ、誘惑を避けて仕事に専念するために、あえて性別を偽っていたとかー」
「そうよ! ぷーとら様の例もあることだし!」
「いやぁぁぁ、それなんてベルサイ(ry」

 そもそも嫁に貰われる方が普通は女性であると言うことを、
彼女らはすっかり失念している。

「これは大変だわ。あの勢いだとすぐに結婚式あるわよ!」
「今のうちに準備始めなきゃね」
「まずはドレスよ! 男物しかお持ちじゃないでしょうしね」
「はーい、私、採寸いきまーす。ふふふ、紺碧様の初スリーサイズゲットだわ」
「大勝利のお祭りの勢いでがんがんやっちゃいましょうよ!」
「おー!」

 意気上がるメイド達。円陣を組んで気合いを入れる。

「うむうむ、国民が元気なのはいいことだ。吏族にも近衛君という優秀なスタッフが
加わって、私も仕事を一層避けることができるだろうしなぁ」

 扉の向こうから聞こえるメイド達の元気な笑い声を耳にして、
藩王はにっこり微笑んだ。

-------------------------------------------------------
後日。

「で」

 青にして紺碧、拳をプルプル振るわせる。
今、着用しているのはいつもの吏族出仕用の服ではなく、どこをどう見ても女性用の……
そして、なんだこの付け耳は。

「お前たちの言うとおり、この衣装を着てみたわけだが……これは一体どういうことだ?」
「やーん紺碧様、やっぱりお似合いですわ~」
「ほんとほんと、素敵ですよ~」
「藩国伝説の道祖神、『のうきん様』もかくや、といった感じですわ~」
「紺碧様、そのお召し物のままで、藩国でも人気の子供向け番組『のうきん様が行く』の
決め台詞をお願いしますわ~」



 青にして紺碧は、ついつられて決め台詞を言ってしまう。しかも決めポーズ付きで。
頼まれればイヤとはいえない、というより脳筋だけに何も考えずに実行してしまうのが
脳筋の脳筋たるゆえんだ。

「これで結婚式も滞りなく準備をすすめられますわ~」
「ちょっと待て。今なんて言った?」
「いやですわ。お隠しにならなくてもよろしいんですのよ、紺碧様。
近衛様と結婚されるのですよね?」
「……そうか、近頃政庁で妙なうわさを聞くと思ったら、出所はお前たちか?」

 青にして紺碧の背景が、ゴゴゴゴという効果音付きで変わって行く。

「あらいやですわ、私たち、この耳でちゃーんと聞きましたのよ?
『陛下に近衛さんをください』って紺碧様がおっしゃると・こ・ろ」
「耳がいいならちゃんと話を聞けーっ!俺が言ったのは、
『近衛さんを吏族のスタッフにください』だっ!彼は優秀だから、以前から吏族として
出仕して欲しいと思ってただけだ!お前たち、そこになおれぃっ!」

 怒りに燃える青にして紺碧が、メイドたちを必死の形相で追いかける。
 当然、メイドたちは『つかまってたまるか』、『このままBL、もしくはベルばらに持ち込むのよ!』
と固く誓い合って政庁内を駆け抜ける。当然、壁には「廊下は静かに」の張り紙もあるが
誰もそんなものは守っていない。

 あと一歩で少なくとも一人は捕まえられる、と紺碧が思ったその時、誰かが紺碧の
首根っこをぐいっとつかんだ。

「やぁ、紺碧君」
「ありゃ、こんにちは、結城さん」

 彼の名は結城洋一。
 脳筋で3までしか数字を数えられない紺碧の代わりに、日々電卓を叩かされる文族だ。
 周りをよく見ると、同じく脳筋の被害に遭っている文族のよっきー、技族の劔城、吏族のちは、サク、ぷーとら、飛翔、そして次期国務長官と噂されるメビウスの姿もあった。
 つまり。
 ここで青にして紺碧を囲んでいるのは、脳筋被害者の会ご一同様なのだ。

「さあ仕事しようか紺碧さん」さっと空中にエクセルシートを表示する飛翔。
「そーそー、避けてばかりじゃダメですよ。お仕事お仕事♪」ニュース大臣も兼任するちは。
「僕の作った『できる!?評価値の計算』、ちゃんと読みましたか?」これはよっきー。
「いいかげん、3以上の数字を覚えてくださいね」劔城が詰め寄る。
「さっさとその脳みそを何とかしろ。何でこんなのが吏族に混じってるんだ」俺が理力使いなら、真っ先にこんな脳筋は丸焼きにしてやると思うメビウス。
「脳筋だから、何も考えずに応募しちゃったみたいなんですよね、この人」サクがフォローするが、それはフォローになってない。
「おねがいだから電卓の使い方くらいマスターしてください。あと、私は男です」ぷーとらが哀願する。

 一同に廊下を引きずられる青にして紺碧。

「ちょwwww待てやお前らwwww俺はあの者たちをつかまえて……皆さん話聞いてます?」
「ああ、よく聞こえている。近衛君と結婚するとかしないとか」
「式には呼んでくださいね♪」
「それが式用にメイドたちが作った服ですね。よくお似合いですよ」
「でも式の前には4以上の数字を覚えておいてくださいね」
「紺碧君。この関数電卓をあげよう。これを使えば挙式費用の計算もばっちりだ」
「ちょwwwwお前らみんなグルか、グルなのか?たすけて、たすけてぇぇぇ~(涙)」

 部下たちの騒ぎを遠くで聞きながら、摂政嘉納は茶を飲みつつこう思う。

「純子さん、もうすぐ帰りますからね。パインサラダを作って待っててくださいね」

 と。

(作:森沢/構成:青にして紺碧)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント