【食糧増産計画】海の男・古流よけ漁業編

漁師は海法藩王の演説を流していたラジオのスイッチを切ると、船室から甲板に出た。
甲板ではもう一人の漁師が雑誌を顔の上にかぶせて昼寝していた。
いや、昼寝ではない。よく見ればイヤホンで携帯ラジオを聴いていた。
足音に気付いて身を起こす。

「はは、海法の坊主もすっかり藩王が板についてきやがったもんだ」
「これでさっさと身を固めちまえば国としては安泰になるんだろうがな」
「摂政の嘉納には見合いを紹介してるくせに自分のことはさっぱりだからな」
「まぁ、そうでなきゃあ奴らしくねぇ」
「違えねぇや」

二人はひとしきり笑い声を上げた後、同時に真顔に戻った。

「だが、戦争はいかんなぁ。戦争は。ありゃあ腹が減るだけでいいこたぁねぇ」
「ああ。だがまぁ、始まっちまったもんはしょうがねえ。俺たちにできることは何だ」
「魚を獲ることだ。獲って獲って、獲りまくることだな。その分飢える奴が減る」
「分かってんじゃねぇか」
「分かってても愚痴りたい時くらいあらぁな」
「へいへい……っと。で、アレでいくんだよな?」
「事態が事態だからな。出し惜しみしてる場合じゃねえだろう」

それだけで打ち合わせは終わった、という風に二人は舳先に向かうと、
それぞれ藁で編まれた人形を海に放り込んだ。
よけ藩国に伝わる海難よけのまじないである。
最近は市販の人形を使うのが主流になっているが、
この二人は昔ながらのこのやり方を好んで使っていた。

人形が沈んでいったのを確認すると、一人は船室に戻った。
船室内、コントロールパネルのスイッチを一つ跳ね上げる。
トランシーバのスイッチだ。舳先ではもう一人がインカムを装着している。

「あーあー、こちらマクレガー。聞こえてっか?」
『こちらダニエル。感度は良好だぜ。魚群もイイ感じのが見つかった』
「ほぅ、大物はいるか?」
『リヴァイアサン級、モビー級の反応はなし、ヌシ級がいいとこって所だな』
「楽勝楽勝。物足りねぇくれぇだ」
『ま、その分数はいやがるからな。我慢しろぃ』

マクレガーは舳先に取り付けられた直径1mほどの円形の足場に飛び乗ると、
マシラのごとくに低い姿勢をとって身構えた。

「オーケー、ド派手にいったらぁ!」
『エンジン始動、カッ飛ばすぜぇ。3!』
「2!」
『1!』
『「GO!」』

弾かれたように突進を開始する漁船。
波を越えるたびに船体が踊るように跳ね回りながらも、
スピードをまったく落とさず魚群へと向かう。

魚群が漁船の動きに気付きはじめるのとほぼ同時。
ダニエルがコントロールパネル上のひときわ目立つボタンを押し込んだ。
アーマーパージ。
ボルトに仕込まれた炸薬が爆発し、外装板を吹き飛ばす。
同時に内部に仕込まれていた網が後方に大きく展開した。

吹き飛んだ外装板の残骸が大きな水柱をあげたころには、
もう魚群の先頭が漁船のすぐそばまで迫っていた。
見ればマクレガーは首からなにやら網状の袋を提げている。
入っているのは魚の餌だった。
防衛本能と食欲に突き動かされて飛びかかってくる魚たちを、
マクレガーは紙一重でかわし、あるいはいなしてゆく。
勢いあまった魚はそのまま船後方の網の中に飛び込み、捕らえられてしまう。

あまりの危険さゆえに今ではほとんど使い手のいなくなった、
これが古流よけ漁法である。

揺れる足場の上で魚たちの攻撃をよけ続ける様はさながら舞踏のようであり、
それに魅せられ、引き込まれるかのように周辺の魚が集まってゆく。
無数に現れる魚を、マクレガーは拳を、肘を、肩を、膝を、踵を、
その全身を武器として網の中へ放り込んでいく。

無論、その間ダニエルとて遊んでいるわけではない。
船体そのものにダメージを与えようと迫ってくる魚たちを巧みな操船でかわし、
大型魚には遠隔操作の銛を打ち込んで動きを鈍らせ、
ソナーにあらわれる情報でマクレガーをナビゲートする。

ダニエルが急操舵でマクレガーの後頭部に迫る魚の狙いを外せば、
マクレガーは震脚で船の前部を沈みこませてブレーキ代わりにし、
船首への魚の衝突を防ぐことさえして見せた。

マクレガーの体に染み込んだ古流よけ漁法の技術と
ダニエルの類稀なる操船センスが生み出した無敵のコンビネーションの前に
魚たちはあらかた網の中に捕らえられるか、己の敗北を悟って逃げ出した。

「へへっ、ざっとこんなもんよ」
『網ももういっぱいになってきたな。魚群も離れて……いやまて』
「どうした?」
『変だな。一度離れた魚群が戻ってくる』
「そいつぁ確かに変だな」
『なんだ?反応……大きい、リヴァイアサン級だと!?』
「ちょっと待て、リヴァイアサン級はいないんじゃなかったのか?」
『やられた!あんにゃろう逃げる魚群を隠れ蓑にして近づいてやがった。
 今なら網を捨てれば逃げられなくもないが……』
「へっ、馬鹿言ってんじゃねぇや。魚から逃げたとあっちゃ末代までの恥だぜ」
『やっぱそうなるか。いいか、奴の図体じゃあかすっただけでも吹き飛ばされちまう。
 ある程度距離をとって回避するから、そのままじゃあお前の攻撃はとどかねぇ。
 そこで俺が先に銛を打ち込むから、そのロープを伝って殴りに行け。
 一撃離脱で無理はするな。……できるな?』
「誰に向かって言ってんだよ。できねぇわけねぇだろ」
『だな。コンタクトまで後15秒。準備はいいか?』
「オーケー。それじゃあ……」
『「ド派手にいったらぁっ!!」』


リヴァイアサン級ブリの水揚げが新聞の一角を賑わせたのは、二日後の朝のことであったという。

(よっきー)

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