【食糧増産計画】子猫の冒険編

食料増産計画・子猫の冒険編

 /※/


 それは、小さな子猫達の、とても大きな冒険。



 その日。藩国内は騒然としていた。
 食料増産の指示が各所に出回っていたからだ。

 避け政庁内では、食料増産関連の吏族召集に伴い、
青にして紺碧の元、サク・よっきー・飛翔が集まっていた。
 海上では、男達の熱い歌声が響いている。
第三十六号丸に乗船している漁師達が高らかに歌っていたからである。


 そして同時刻。
 避け藩国内にある、林とも森とも判断しがたい木々の間を、
小さな小さな猫人知類の少女二人は歩いていた。
 何故、林とも森とも判断つかないかと言うと、まだ誰も全貌を掴めていないためである。
その為、この木々がどこまで続いているのか、誰も解らないのだ。
 そう。ここは避け藩国。木々すらも避けてしまうため、地図があって無いような物なのだ。
 位置としては国立病院の付近、らしい。
 やっぱり、おおざっぱなものである。


 少し、薄暗く木漏れ日も射してこない、道無き道を行く少女二人。
「ねぇ、どこに行くにゃ?」
「食べ物のあるとこにゃ!パパに食べ物をいーっぱい、持っていってあげるのにゃ!」
 この少女達は、国立病院に勤める医師・ナルシルの愛娘である。

 意気揚々と前進するのは、キジトラ尻尾がプリティな幼稚園児の『すべすべ』。
 そのすべすべの後ろに、少し怯えながらついてきているのが、
茶トラ尻尾がラブリィな幼稚園児の『もちもち』。
 この二人。幼稚園を抜け出し、何故こんなところを歩いているのかと言うと。
 大好きなパパにお腹いーっぱい、ご飯を食べてもらいたいから。

「今、パパは忙しい忙しいなにょ。かんじゃさんがいっぱいなんだって」
「昨日も会えなかったにゃ…」
 しょぼん、とするもちもち。尻尾もショボンである。
 それに反してすべすべはまだ長くない尻尾をピーンと立てて息巻く。
「しかも今は食べるものが少にゃいから、パパはいつもお腹グーグーなにょ」
「お腹グーグーはせつないにゃぁ」
 あ、もちもちが軽く涙目だ。
 そんなもちもちには気付きもせず、すべすべの熱弁は続く。
「でも!私達が、食べ物を見付けて、パパに持っていったらパパ、お腹いっぱいになるにゃ!」
「パパ、元気になるかにゃ?なるかにゃ?」
「なるにゃ!そしたらまた、あのお尻尾で私達をクルンとして、ギューしてくれるにょ!
だから、今日帰ってくるパパのために、行くにゃ!」
 パパに何か美味しい物を。ただ、それだけ。

 なんて健気な!


「でも、すべすべ。ここには何があるにゃ?」
「解らにゃい!」
 即答かよ。

 日差しが避けるこの木々の間は、昼間だというのに薄暗い。
もちもちには、それが怖くて仕方なかった。
 そっと、すべすべの服を掴む。
 それに気付いたすべすべは、その手を掴み、手と手を繋いだ。
「これで怖くにゃいよ、もちもち」
「うん!」
 薄暗い木々の隙間を、こけそうになりながらも、固く手を繋いだまま、二人は進む。
 だが。実はあてなき道。すべすべもここに何があるかも解りはしない。
何も無いかもしれないのだ。


 小枝に躓き、鳥の羽ばたきに怯え。ひらひら舞う木の葉にたまにじゃれたり。
そして疲れたら、木の根元で座って休む。
 そうやって、一時間は歩いただろうか。
 小さな二人には、かなりキツいものだった。


 二人が諦めかけた時。
 もちもちが小さな手で指さした。その先―――
「すべすべ。あそこ!なんか明るいにゃ!」
「はにゃ?にゃんだろ?行ってみるのにゃ!」
 固く繋いだ手は離さず、二人は眩しく光射す木々の先へと駆けていった。



 木々が途切れた先に広がるそこには、低い背丈の苗木が植えられ、広がっている。
 広さは、東京ドームくらい?けっこう広いな!
 高くそびえ立つ木々も、そこだけは避けているようだ。
 植えられている、それらの細く小さな枝には何やら赤い実がたくさんなっている。



 今まで、薄暗い道を歩いていたため、そこに射す光は、二人にとってとても眩しかった。
 その眩しさに慣れると、二人はその木の実を摘みに行ってみた。
 やっと間近で見れる。
「ねぇ、すべすべ…これ見たことあるにゃ!」
「うん、ママがジャム作ってたにょ!」
 恐る恐る、その実を一個ずつ食べてみる二人。
 不安は過ぎったが、口に含んだ瞬間、笑顔が広がった。
「そうだよ、これ!」
「うん、木苺にゃ!」


 それは、今まで誰にも見付かることのなかった、とても広大な木苺畑。
 それを少女二人で見付けてしまったのだ。

 にゃあにゃあ喜ぶ二人に、遠くから駆け寄る姿が見えた。
「すべすべ!もちもち!」
「あー!」
「パパにゃー!パパぁー!」
 それは、長い髪の毛を振り乱し、白衣を翻してやってきた二人の父親、ナルシルだった。
「パパ、見てにゃ!」
「木苺見付けたにょ!」
「ば、ばか…お前達!何を!」
 ナルシルは怒っていた。心配していた。
 幼稚園から娘二人が居なくなったと連絡がきた時、心臓が停まる思いだった。
 慌てて病院を出たとこを、木々の間に入っていく二人を見付けて追い掛けた。
 しかし、二人は自分達が通れる程の隙間を行っていたため、
成人男性のナルシルには突き進むのも困難な道を行くはめとなった。
 彼は、ただひたすら娘達の姿を見失わないようにするだけで精一杯だったのだ。
 娘達を追い掛けながらナルシルは思った。
(追い付いたら絶対叱る!今日こそ叱る!)

 そして、追い付いた今、叱るつもりだった。しかし……
「パパ、これでもうお腹グーグーじゃにゃいよね?」
「パパがお腹グーグーは嫌にゃ!」
 娘達のこの台詞に驚くナルシル。
「お前達…まさか…」
 まさか、自分の為に?自分の為に、小さな愛娘達がこんな危ない所に?
 そう気付いたら、涙が出てきた。いやマジ泣きした。

 涙を流した父に気付く。
「パパ?どうしたにゃ?」
「きっとお腹グーグーにゃ!食べてにゃの~」
「私達、がんばったにゃ~」
 ああ、そうだな。流石だよ。俺の娘達はすごいよ!
 もう号泣だった。

 男泣きをするだけして、娘達も無事捕獲したナルシルはやっと冷静になった。
「しかし、国内にこんな大きな木苺畑なんてあったか?」
 いや、こんな大きな木苺畑。しかも見るからに豊作なこの畑があるなら、
今こんな酷い食料危機に陥るはずはない。
 二人の娘を抱き上げるナルシル。
「パパ。お家帰るにゃ?」
 右の腕にすべすべ。ナルシルの髪の毛を掴んでいる。
「いや、ちょっとだけ寄り道をしよう」
「寄り道?」
 左のもちもちは白衣を掴む。ちょっと落ちそう。
 腕から落ちかけるもちもちを抱き直す。そして、微笑んだ。
「藩王様にご報告だ。国民も喜ぶぞ!」



 今夜は早く帰ろう。何がなんでも早く帰ろう。この愛しく強い娘達と過ごすのだ。
 そう、強く心に決めたナルシルは、娘達を連れたその足で、政庁へと向かった。


 /※/


 報告を受けた政庁は、直ぐさま探検隊を差し向けた。
 しかし、見付からない。探検隊がそこに突入するとすぐ木々を抜けて、
公道に出てしまうのだ。
 デマか!?処分だ!と言う者を、政庁の上層部は黙らせる。

 会議の結果。
 新たに差し向ける探検隊に、保護者ナルシル同行であの少女二人を加えてみた。

 そう。避け国民の大人では、その木苺畑を避けてしまうのではないか、と考えたのだ。
 少女達も、確かに我が避け藩国国民だが、まだ幼い。
 大人では避けてしまわなくてもいい物まで避けてしまう場合もあるが、
この少女達ならもしかして、と考えたのだ。
 案の定、すべすべともちもちを連れた探検隊は無事、木苺畑を避けずに発見。

 こうして、広大な木苺畑を発見したのだった。




 それは、父親を想う、小さな小さな子猫の話。
(涼華)

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