我はチケットの盟約に従い物語を記述する(2)

  昼休み

       彼女の場合

    猫まみれ



――11107002



あおひとは寝不足だった。

涼華にそそのかされてケーキを作ったのが数日前。目が覚めたら病室のベットの上だった。

その日から毎晩、夢枕に恨みがましくすすり泣く長い髪の女(国民は総じて髪が長いので
誰かはわからないけれど)が現れて、「しんにい」と呪文のように繰り返した。

退院した日からすすり泣く女の夢は見なくなったけれど、まだよく眠れない。
自慢のしっぽも少しばさばさしている感じ。

あるいは食べたものが悪かったのかもしれないにゃ、とあおひとは考えた。

「あおひと先生、お昼休みですよ」

看護婦の声にあおひとは大きな伸びとあくびを同時にすると、食堂へ向かった。

まだ食欲があまりないので、軽いメニューを選んで席に着く。

「ねぇねぇ、外科のからす先生、ちょっとかっこよくない?」
「え、あなたってそうなの?」
「あの黒いしっぽが素敵なのよぅ、ちょっと悪っぽくて」
「はー、あたしにゃその感覚はちょっとわかんないわ」

という看護婦たちの会話を右の耳から左の耳へ聞き流しながら、あおひとは昼食をとった。

食器を片付けながら、今日こそは、と何事か誓ってこぶしを握り締める。

テラスからそのまま中庭にでると、日当たりのいいところを中心にうろうろと歩き回って……、見つけた。

ベンチの上に一匹のデブ猫がぐてーっと伸びていて、日光浴をしていた。気持ちよさそう。

「こ、こんにちは、お、お隣いいかしら」

にこやかにー、と思いながらやや失敗し、あおひとはベンチにじりじりと近寄っていった。
デブ猫は片目を開けてちょっと迷惑そうな表情。あおひと、ちょっと傷ついた。

「あのー、き、今日こそはお名前を教えていただけないかしら?」

デブ猫は目を閉じるとそのまま伸びて、つれない素振り。あおひと、凹みかけたが
なんとか持ち直すとポケットからねこじゃらしをとりだした。

「遊んでもらえないかな、って思って持ってきたんですけど……」

猫、無視。あおひとがまんできなくなってデブ猫の前でねこじゃらしを振ってみた。ふりふり。


(あおひと作)

ふりふり。ふりふり。ふりふり。

……むずむず。

ふりふり。

むずむず。

ふりふり。

「んにゃー!!」

あおひとはねこじゃらしに我慢できなくなって自分が飛びかかり、
デブ猫にしたたかにひっかかれた。

/*/

翌日。

引っかき傷も生々しく、あおひとは昼休みを迎えると勇んで席を立った。マジ引きする看護婦。

あおひとはハンドバックからなにやら袋をとりだすと、袋を荒々しく破って
中身をポケットに詰め込み、颯爽と中庭を目指した。

そしてあのベンチを目指す。

今日こそは私の魅力の前にひれ伏させてやるんだから! 肩からは闘気が立ち上り、
すれ違った松葉杖の入院患者が恐ろしさのあまり走って逃げ出した。

はたして目標は……、いた。昨日とおなじようにベンチで日光浴をしている。

目標を確認して、よし、と意気込むあおひと。白衣のポケットから
さきほど袋から取り出して詰めた小枝のようなものをとりだすと確認した。

と、突然視界が揺れる。あ、しまった。と思うまもなく腰が砕ける。へたへたと座り込んだ。

――生物学的な分類上では猫知類と猫人知類は明らかに異なった種である。
しかし、共通点もないことはない。

またたびもまた、効果があると言う意味では共通点と言えるが、猫人知類には
猫知類ほどの効果はなかった。

――しかし。

あおひとは病み上がりだった。寝不足だった。食欲がなくてあまり食べていなかった。
端的に言えば弱っていたのである。

「あ、あふ。なんだかふわふわしていい気持ち……」

ぶっ倒れるあおひと。もうどうにでもして、状態である。ぶっちゃけエロい。お子様は帰れ。

と、またたびのにおいを嗅ぎ付けたのか、あちこちの草むらから猫が顔を出した。

病院の中庭は日当たりがよくて、実は多くの猫が日光浴に集まっている。
町内会の猫知類会議も実はここで開催されていた。

そして、本年最初の猫知類会議はまさにこの日、行われていたのである。
つまり、中庭中猫だらけ。

やぁやぁあけましておめでとう、今年は俺結婚しようとおもうんだ、
何言うんだ遊び猫のくせに、とかなんとかやっているところに、
またたびをばらまきながらぶっ倒れるおかしな白衣の登場、というわけであった。

猫たちはいっせいにまたたびに群がるとかじり始めた。
なかにはポケットに顔を突っ込んでまたたびを引っ張り出す猫までいる。

あおひと、猫まみれ。もう幸せなんだか恥ずかしいんだかよくわからない。
盛大にぶっ倒れた。

デブ猫はそれを片目で眺めると、目をつぶって昼寝を始めた。


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番外編 その頃の紀光王


紀光王はアメショーのキャットバスケットからの空挺降下試験を眺めながら、
午後のお茶を飲んでいた。

目の前に甘そうなタルトがあるが、他の整備士が食べるのを横目に必死に我慢する。

ダイエット、という孤独な戦いが続いていた。

(結城洋一)



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さらに番外編。


院内の、自分の事務室から中庭を眺める、涼華。

「あ、あおひとセンセにゃ」
「……猫まみれで羨ましいにゃあ…」

ほほえま~な表情で、あおひと先生に群がるにゃんこを見て、仕事に戻った。



※このお話は、
0108 No.2 伝説のケーキ作り リザルトレポート
http://eyedress.at.webry.info/200701/article_21.html
0108 No.2 伝説のケーキ作り 外伝
http://eyedress.at.webry.info/200701/article_38.html
を読むと、さらに楽しめますよ、はい。

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