海法よけ藩国/電網適応アイドレス

アクセスカウンタ

zoom RSS 【助のシンタロウ日記】

<<   作成日時 : 2007/03/28 02:50   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 2

※このSSは、“【タイガーライドSS】大会二日目・黒崎克哉”のコメント欄から続くSSです。


それは、いつもと同じ朝。
それは、いつもと同じ時間。
いつもと同じ様に涼華は仕事へ出かけた。
いつもどーり、玄関で見送りをした助は扉が閉まった後、溜め息をついた。
耳は下向きにぺったんこで、困った様な、悩んでいる様な表情をしている。

「ふにゃ…タイガーかぁ…。」

先日、涼華は一匹のタイガーを連れて返って来た。名前はシンタロウ。
涼華本人は飼う気全開、フルスロットル、さっそく裏庭にシンタロウの小屋を建てた。

しかし、飼うと言っても涼華は朝から夜まで仕事に追われる医者である。
結局、家に居る助がシンタロウの世話をする事になる。

「…う〜、怖いにゃ…。」

実は、助は自分より大きい物に対して恐怖心を持っている。180cm近い男性も恐怖の対象だった。
人間すら怖いのに、いきなり慣れない巨大な動物の飼育を任されて、本音では『怖いから嫌!』だったが、人に弱味を見せたくない性格から黙っていた。
しかも自分は居候の身、家主に文句は言えない。

「ふにゃ…。」

気落ちしたまま時間は過ぎ、シンタロウに餌をやる時間になった。


買い物籠ほどの箱に、野菜とタイガー用の餌を交ぜて、小屋まで運んで行く。

(少し…重いにゃ…。)

ふらつかない様に、踏ん張って小屋に向かうが、一歩手前で足が止まる。

(いきなり食い付かれたらどーしよ〜)

という恐怖心がよぎった。

「んにゃ!草食動物は大人しいにゃ!」

自分を説得し、小屋の中へ入った。

「…シンタロウ、ご飯だにゃ。」

―ガッガタンッ!!―

「うにゃぁっ!?」

助が小屋に入るとシンタロウは入口から遠い壁に向かって走り、壁に体当たりをした。
その音で、助は小さくジャンプするほど驚いている。

「ふにゃ、ふにゃ…。シンタロウ、ご飯、ここに置くにゃ…。」

そっと餌箱を置くとビクビクしながら走って家に戻った。
おどおどしつつ、リビングから小屋の様子をうかがう助。
しかしシンタロウはすぐに餌を食べずにいた。

餌を置いてから30分ほど過ぎた時、回りを警戒している様子でもそもそと食べ始めた。

(うにゃ?変な子だにゃぁ?)


次の日も、シンタロウは助を見ると壁に体当たりをし、体を壁に密着させて、誰も居ない事を確信してから餌を食べている様だった。

(うーん、おかしいにゃ…。シンタロウは何か変だにゃ。)

さすがに三日もすると、相手が巨大なタイガーでも多少恐怖心は薄れていく。
助は、今日は怖がらないでシンタロウの様子を見よう!っと腹を決めた。
餌箱を持ち、耳はピンっと立て、小屋へ入って行く。

「シンタロウ、ご飯だにゃ。」

―ガダンッッ!―

壁に体当たりする音にはもう慣れた。
助は恐怖心を棄て、シンタロウを正面から見据えた。

「……!?」

シンタロウは、壁に張り付く様に逃げ腰になっている。
助を見て怯え、逃げ場を捜していたのだ。

「シン…タロウ?」

よく見れば、シンタロウの毛はボロボロだった。
毛先はいたる所が黒い固まりになっている。全身がグレーに見えるのは汚れているからだ。
背中や脚の毛は擦り切れ、地肌が見えている。
足の爪は割れていたり、一本の指には爪は無く黒く変色していた。

(前の飼い主が酷い奴だった)

黒崎克哉の話を思い出す。
何故シンタロウが涼華の家に引き取られたのか思い出す。
助は小屋から飛び出し、室内の自分のクッションにうつぶせになった。
ショックだった。全身が震え、涙があふれてくる。
前の飼い主への怒りなのか、シンタロウが可哀相だからなのか、ただ怯えて何も気付かなかった自分が情けないのか、感情がごちゃ雑ぜになっている。


そのまま時間は過ぎ、涼華が家に帰って来た。
半泣きで玄関に向かった助は、涼華の前でまた泣き出した。

「シンタロウが可哀相だにゃ」
「気付いて無かったにゃ」
「前の飼い主は許せないにゃ」

感情の整理が出来ず、ただ単語を伝えて泣き続ける。
涼華は黙って話を聞きながら、助の頭を撫でてやった。


 /※/


次の日、助は一冊の本を買った。

【タイガーの飼育書】

とにかく、知る事から始めよう!そう思っての一歩目だった。

『元々は食用の鳥だった。』
【タイガーの飼育書】の出だしの文章を読んで、助は「食べるんかいっ!」っとツッコミを入れていた。

その後の解説で『食用の鳥から改良されたのが今のタイガーである。』と書かれてあり、何となくほっとした。
…まぁベジタリアンとゆー訳では無いし、鶏を食べたり、他の肉も食べている。
でも、シンタロウが食用だったら何となく嫌だなぁ…。と思った。


飼育書をしっかりと頭に叩き込み、いざ!餌を持ちシンタロウへ向かう。

「シンタロウ、ご飯だにゃ〜」

小屋に入る前に静かに声を掛ける。少しでもシンタロウが怯えない様に考えて、考えて、行動した。
小屋に入ると、またシンタロウは壁際へ逃げる。
助は、餌箱を静かに下ろす。

「このご飯は好きかにゃ?」

シンタロウに一言話し掛けて、静かに小屋を出た。
そして、リビングから観察する。
人に怯えるシンタロウに『もう怖がらなくていいんだ。』と分かってもらいたい。
助は、じっとシンタロウを見守った。


そして、何日か過ぎるとシンタロウに変化があった。
助が小屋に入っても壁際に逃げなくなった。

「にゃ…。ご飯、ここに置くにゃ、いっぱい食べるのにゃ。」

一声かけて小屋から家に戻る。
リビングから見ていると、今までは餌箱に近付くまで30分近く警戒していたのが、数分で餌箱に近付いてパリパリと餌を食べている。
まだ辺りをキョロキョロと見回してはいるが、少しづつ、ここが安全な場所だと思ってくれた様だ。
シンタロウの食事が終わったのを見て、助は餌箱を取りに行く。
最初の頃は餌を残していたが、今日は箱が空になっていた。食欲が出てきたらしい。

「シンタロウ、お腹いっぱいになったかにゃ?」

助は微笑みながらシンタロウに話しかける。

小屋から出て、餌箱を洗っている間、ずっと助はにこにこだった。
涼華が帰って来て、「今日のシンタロウ」について語っている間も、ずっと笑顔だった。


「シンタロウ、ご飯だにゃ〜」

今日も、小屋の外で声を掛けてから中へ入る。
シンタロウはじっと餌箱を見ていた。
助はシンタロウはお腹が減っているんだと思い、急いで餌箱を置いて、小屋から出ようとした。

すると、シンタロウは助が小屋から出る前に餌を食べ始めた。

「…シンタロウ?」

小屋に自分が居るのに、餌を食べるなんて思いもしなかった…。

「…。」

助は泣いた。
シンタロウが怯えない様に、声をころして、その場にしゃがんで肩を震わせた…。
助が泣きやむのと、シンタロウの食事が終わったのはほぼ同時だった。

空になった餌箱を持って行こうとした助の背中に―どんっ―と衝撃があった。

「にゃにゃっ!?」

強く押されて転んだ助が振り向くと、シンタロウの顔が間近にあった。
そして助の体に頭をすりすりと押し付ける。

きっと、シンタロウは甘えて来たのだろう。
しかし力一杯、頭をすりすりされる助はシンタロウと地面に挟まれ、中身が出そうになっていた。

「シンタロウ!ストップ、ストップにゃーっ!」

言葉が解ったのか、シンタロウは助から頭を離す。
ゼ〜ハァ〜と深呼吸しながら。

『普通、こーゆー場面はもっと感動的なもののはずにゃのに〜。』

泥だらけになった自分の服を見る。
しかし、じっとこちらを見つめるシンタロウの瞳に、ふにゃぁ〜っとなり、手を伸ばしてシンタロウの頭を撫でた。
シンタロウは気持ち良さそうに目を閉じてクゥクゥと鳴く。

「…シンタロウ…可愛い!可愛いにゃ〜っ!」


(亀助さん画:「助とシンタロウ」)


その日から、助は『タイガー馬鹿』になった。
餌やりのほかに、シャンプー、ブラッシング、爪ヤスリなどお世話グッズを買い込み、午前中はシンタロウにべったりになった。

そんなある日、涼華が仕事に出た数時間後、助はリビングの椅子の上に置かれたでかい封筒を見つけた。

「…これはたしか、今日提出する論文のはずだにゃ…。」

ここしばらく、涼華の出番が無かったのは論文の締切りに追われ、自室の机に向かっていたからだった。
しかも、三日間ほど徹夜をし、半生半死の状態でやっと仕上げた原稿、もとい、論文である。
それをうっかり忘れて出かけてしまったのだ。

「大変にゃ!急いで届ないと、本が落ちる!…違う、とにかく大変にゃぁ!!」


助が家で叫んでいる時、涼華も病院で叫んでいた。

「いゃぁぁ!論文忘れて家出てきちゃったぁぁ!!」

院内に涼華の絶叫がこだまする。
近くにいたあおひと先生は尻尾を膨らませながら、何とか冷静に涼華をなだめようとした。

「まだ時間はあるにゃ!取りに戻れば問題ないにゃ!」
「ダメにゃ…後10分後にぜのすけのデータベースに入力開始にゃのに、アクセスナンバーもディスクも封筒の中にゃ…。」

沈みかえり、耳を伏せる涼華の元に、一人の希望が現われた。

「ちょー!涼ちゃん!ちょっとこっち来ぃや!」

涼華の古い友人で、同僚でもある黒崎は、慌てて涼華に駆け寄ると、腕をつかんで正面玄関へひっぱって行く。
魂が抜けかけの涼華はただズルズルと引きずられている。

「涼華お姉様!」

ホールには封筒を持った助が居た。

「助っ!封筒届けてくれたのにゃ!?」

涼華は助から封筒を受け取ると、何か言いかけた黒崎を無視して一気に院内を激走し、ぜのすけへのアクセスを開始した。


数時間後、一仕事終えた涼華は助と黒崎の事を思い出す。
『まだ居るかにゃ?』と二人を捜した。
二人は院内の待合室で座っていたが、なにやら黒崎が助を叱っている様な感じだった。

「かっちゃん、何怒ってるにゃ?」
「かっちゃん言うな!それより、涼ちゃんも一緒に来ぃや!」

黒崎と助と涼華は病院の正面玄関の外に向かう。
そこには、タイガー・シンタロウが居た。

「…あれ?何でシンタローちゃんがここに居るにゃ?」

涼華は普通に疑問を口にする。

「あんなぁ、涼ちゃん。助やんが病院にタイガー乗って来たんや…。」
「…。」
「…。」
「…タイガーって、競技場以外で走ってもいいにょ?」

涼華は、本職とは別にタイガーライドのライダーであり黒崎に聞く。

「自分はそこまで知らんけど、助やんがタイガーに乗って走って来たの見て、驚いたわ。」

涼華の忘れ物に気が付いた助は、とにかく急がなければ!っと思い、ついシンタロウに乗って爆走して来たのだった。

「うにゃ…ごめんなさい…。帰りは歩いて帰るにゃ…。」

助は黒崎にあやまるとシンタロウの首を撫で、とぼとぼと歩いて行った。
子猫の後ろを巨大なタイガーがついて行く、後ろ姿が微笑ましい。

「…シンタロウ、ずいぶん可愛がられてるみたいやね。初めて見た時と全然違うやん。」

今のシンタロウは全身柔らかな白銀の毛をなびかせ、凜とした雰囲気を感じさせる、そんなタイガーとなった。

「にゃ!助は泣きながら頑張っとったんよ!」

その涼華の一言を聞いて、助は回れ右して駆けて来る。
当然、シンタロウも涼華、黒崎に向かって走る。
柵の無い場所で、タイガーに向かって来られるのは意外と恐怖だ…。
『泣いて無いにゃーっっ!!』とキーキー叫ぶ助は置いといて、シンタロウの事は政庁に聞いてみよう。
涼華はそう思った。

― 終わり / 涼華さんの【ナンバープレート申請物語】に続きます ―


(亀助)

※亀助さんは「アイドレス」には参加されていませんが、ご本人の許諾を得てこちらのSSを藩国内に転載させていただきました。ありがとうございます。(青にして紺碧)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
亀助さん、掲載許可をありがとうございます。
大切に扱わせていただきます。

……助さんがかわいいです(ぼそっ)
青にして紺碧
2007/03/28 03:05
助さんとシンタロウのけなげさに…・゚・(つД`)・゚・
森沢
2007/03/28 07:47

コメントする help

ニックネーム
本 文
【助のシンタロウ日記】 海法よけ藩国/電網適応アイドレス/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる